「のんでけメラルー」にて
桔「一人なんて珍しい。相棒はどうしたの?」
浮「今日はたまたま別口の仕事に行ってな。合流すんのも面倒だし一人で来た。悪いか?」
桔「悪くは無いけど私は今日、早番だから・・・。」
浮「・・・なら帰るか。」
オレは帰ろうと席を立とうとする。
桔「そう、残念、折角だからここで一緒にご飯でもとか思ったのに。」
浮「・・・帰らない。」
桔「なら、ちょっと待ってて、着替えてくるから。」
と奥へと入っていった。
桔梗この「飲んでけメラルー」の従業員でかなりの美人だ。
彼氏は居ないようだが「何でも飲み比べで自分に勝てたら付き合ってくれるそうだ。」
実際に彼女目当てに来る男性客も多い。
オレとしても彼女は魅力ある女性だと思うが、実際は仕事での付き合いが多く。
情報屋として信頼しているといった気持ちの方が大きい。
桔「おまたせ。」
と、普段着でホールに戻って来た。
浮「んで。何を食う・・・いや、飲むんだ?」
桔「そんなの決まってるじゃない。おじさ~ん。ワインの酒樽とジョッキ二つ持って来て!」
と、店の中に声が響く。
一瞬、店内が静まるが注文した人間が桔梗だったためもとの喧騒へと変わる。
浮「・・・相変わらずこの店の人間は・・・。」
オレは頭を抱える。
桔「いいじゃないの。いつもの事よ。それに、ワインなら浮葉にも勝ち目あるわよ。」
桔梗は子どものようにオレに笑う。
浮「ほぉ・・・その勝負・・・乗ったぁー! 今度こそ勝ってやろうじゃないか!」
桔「ふっふっふっ。負けたほうが全額持ちよ。」
浮「わかってる!」
オレが答えると酒樽とナミナミとワインが注がれたジョッキが二つ。
それと、いつもの「おつまみ」がテーブルの上に置かれた。
店「さて、今日のバカは浮葉だ。今のところ0勝2敗!
三度目の正直となるか! それとも二度あ・・・。」
浮「だー! うるせー!! 今日はオレが勝つ!!!」
桔「いつにもましてハイテンションね。」
余裕の桔梗は少し呆れ顔になる。
桔「口だけならなんとでも言えるわ。」
浮・桔「・・・・・。」
店「では、飲み比べ始め!」
店長の掛け声によりオレと桔梗の真剣?勝負が始まった。
<一時間後>
空いた樽.三・・・。
浮「まだ余裕だ・・・。」
桔「私もよ。」
<二時間後>
空いた樽.七・・・・・・・。
浮「まだまだ・・・・・。」
桔「ふふふ。甘いわよ浮葉」
<三時間後>
空いた樽・十五・・・・・・・・・・・・・・・。
浮「ありえん、化け物め!」
桔「うふふ。惜しかったわね。」
桔梗の余裕の言葉と笑みを最後にオレはテーブルにひれ伏した。
・・・翌朝・・・
目を覚ますといつもの天井だった。
浮「ん? 何で家なんだ?」
桔「私が運んだからよ。」
台所からアイルーと一緒に出てくる桔梗。
ア「ふっ、だらしが無いな。同じ量を飲んでいながら貴様はこの様か。」
朝からいつもの皮肉を仰ってくれる我が家のアイルー。
浮「んで、結局はオレの負けか。」
桔「まぁ、そういうことね。お金は立て替えといたから。」
浮「すまんな。」
オレはアイルーが用意してくれた朝食を桔梗と食べていた。
桔梗がこうやって家で食事を摂るのは三回目。
つまり、負けた回数という訳だが。
桔「でも、結構いいところに住んでるわよね。」
浮「そうか?」
オレは住んでいるところにあまり興味が無いので適当に答える。
桔「だって、日当たりも良いし、交通の便もいい、買い物もし易い良い所じゃない。」
ア「桔梗。こいつになにを言っても無駄だ。そういったことに興味が無いのだからな。」
奥から熱いお茶を持って来たアイルーは相変わらず皮肉な顔をして言う。
浮「たく。うるせーよ。」
食事が終わりアイルーが持ってきたお茶を二人で飲んでいると、
桔「ねぇ、ものは相談なんだけど。」
浮「なんだ?」
桔「私たち付き合わない?」
浮「はぁあ?」
桔「けっこう好きなんだ。アナタのこと。」
指を組み両肘をテーブルの上にのせ首を傾ける。
浮「えと、冗談?」
桔「酷いわね。もしかして嫌いなの?」
浮「・・・いや君の事は嫌いじゃないが・・・。」
桔「そう! なら決まり!」
桔梗はいきなり立ち上がる。
浮「おっ、おい。」
桔「そうと決まれば引越しの準備をしなくちゃ。空いてる部屋在ったよね?」
浮「てっ、ココに住むつもりか!」
ア「空いてる部屋は二つ在る。」
アイルーが当たり前のように答える。
浮「おっお前なー。」
ア「折角、彼女の方から来てくれるんだ。貰っておけばよかろう。」
桔「そうそう。とりあえず同棲からてっことで。」
浮「ちょっ、待て」
ア「私も手伝おう。今日中に必要なものを運んでしまおうか。」
桔梗とアイルー。一人と一匹はオレを置いてドンドン話しを進めていく。
浮「だー人の話を聞きやがれー!」
桔「何よ?」
不思議そうな顔をする桔梗。
浮「君と付き合うためには酒飲みで勝たないとダメと聞いたんだけど。」
桔「なに、そのデマ?」
驚きと呆れた声を出す。
浮「デマか。」
桔「デマよ。」
オレの繰り返しの問いに桔梗が答える。
浮「なんだ。」
オレは肩を落としため息を吐く。
桔「で、誤解が解けたところでアナタはどうしたいの?」
浮「そうだな。まぁ、同棲からってのも悪くは無いな。お互いの生活観が良く分かる。」
桔「ということで、よろしく。」
浮「まぁ、こちらこそ。」
ア「どうでもいいが引越しの準備にいくぞ。」
なぜかアイルーに急かされオレと桔梗は家をでる。
浮「まぁ、のんびりやって行けばいいか。」
桔「そうそう、のんびり行きましょう。」
とりあえず、友達以上恋人未満の生活になるのではないかと思うオレだった。
終わり・・・かも?